量子インターネット実現に向けて試験を開始
横浜国立大学発のスタートアップであるLQUOM株式会社(以下、LQUOM)は21日、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)とともに、量子インターネットの実現を目指す実証実験を開始したことを発表した。
実際に東京都心部に敷設されている光ファイバーを用い、量子もつれ状態の光子を伝送、システムや技術の検証を行うとしている。
昨今、量子コンピュータをはじめとする量子技術の開発が活発となり、世界各国で注目度が高まっているが、実際の社会実装を叶えるには、現在の技術ではまだ実現不可能な機能も少なくないため、ネット分野では量子インターネット技術の研究開発が進められている。
量子インターネットは、各拠点にある量子デバイスをつなぎ、量子もつれ状態を共有、量子の状態をそのまま配送可能とする大規模な通信ネットワークのこと。実現すれば量子コンピュータの分散処理や、情報理論的に安全性が確保された高度な量子暗号通信、量子テレポーテーション、離れた2地点における正確な時刻同期などの機能が実用化可能になると見込まれている。
この量子インターネットを実現するには、「量子もつれ」が鍵になる。量子もつれとは、2つ以上の量子が特殊な条件下でペアになることにより発生する現象で、粒子同士にこの関係が生まれると、強い結びつきによってどんなに遠く引き離されても、互いの状態を察知し、瞬時に同じ状態へ変化するものとなる。
この特殊できわめて強い相関関係により、量子テレポーテーションや量子中継などの量子通信が生み出せると考えられている。
不安定な量子もつれ、専用の中継器で伝送
量子もつれを発生させる方法は複数存在するが、光子を使って発生させた場合、その量子もつれ光を、光ファイバーを通して届けることができる。この量子もつれ光が多拠点共有ネットワークとなった時、量子インターネットが成立する。
LQUOMによると、量子インターネットを実現させるには、量子もつれ光を生み出す技術、量子もつれ光を光ファイバーで伝送する技術に加え、量子もつれ光を中継する技術が必要になるという。
量子もつれ状態はきわめて特殊かつ不安定な状態であるため、そのままでは長距離伝送ができず、経路途中での専用量子中継器による中継が不可欠とし、この中継器まわりの研究開発が進められている。
一般の通信に用いられている光ファイバーは、車両交通などによる振動、風雨、季節や昼夜の温度変化など、多様で過酷な環境変化にさらされている。よって量子インターネットの実用化には、こうした環境変化が量子もつれの状態・品質にどう影響するのか、それをどう防ぐのかを確かめ、考えていく必要がある。
今回の実験では、ソフトバンクの本社と、東京都内にあるソフトバンクのデータセンターを結ぶ約16kmの光ファイバーに、LQUOMで開発中の量子通信システムを組み合わせ、実際の大都市部環境における量子通信技術の検証を行う。
実際のネットワーク環境で、量子もつれ状態の安定度や位相の変化がどうなるか、関係データを取得・解析し、技術実用化に向けた課題の洗い出しと整理を行っていくという。
将来的には、LQUOM開発の量子通信システムを用い、ソフトバンクのネットワーク上で量子通信の長距離伝送試験を実施、社会実装を目指していく。未来の高度なネットワークインフラ実現に向け、今後が注目される。
(画像はプレスリリースより)
LQUOM株式会社 プレスリリース
https://lquom.com/news/news-427/