スーパーコンピューターをはるかにしのぐ「量子コンピューター」なるか
東京大学大学院工学系研究科の物理工学専攻、量子光学を専門分野とする古澤明教授らの研究チームが、1つの光子(光の粒子)にのせた情報を、他の場所へ転送する、高効率で完全な「量子テレポーテーション」に世界で初めて成功したと発表した。この研究結果をまとめた論文は、現地時間14日の英科学誌「Nature」(ネイチャー)に掲載された。
この基礎技術を発展させることで、スーパーコンピューターをはるかにしのぐ計算速度で処理が可能な未来のコンピューター「量子コンピューター」を構築し、実用化できると期待される。
新方式で成功!安全で劣化のない通信にも
量子テレポーテーションは、量子もつれといわれる物理現象を利用したもので、1つの光子を分裂させ、一体として振る舞う2つの光子の間で、量子にのせたその状態に関する情報を、離れていても瞬時に伝えることができるというもの。理論的には1993年に提唱され、1997年には実証もされたが、転送したのちに量子ビットの測定判定が必要だったことや、転送効率が悪い方法であったことなどから、実用化には結びついていなかった。
研究チームでは、光がもつ粒子としての性質ではなく、波としての性質に注目し、光の振幅や位相を転送する「光の波動の量子テレポーテーション」装置を開発。無条件で常に動かすことができるほか、従来の方式の100倍以上となる高効率で、情報を劣化することなく瞬時に転送させる量子テレポーテーションを可能にした。
この新方式では、転送後の量子ビット測定判定も不要で、今後用いる光のエネルギーを高めていくと、原理的に100%まで転送効率を高めることが可能という。従来の欠点がすべて克服された完全な量子テレポーテーションの成功、といわれており、絶対に安全な量子暗号通信や超高速の量子コンピューターの誕生が期待される。
現在の装置を1単位とし、複数の単位を接続して多段階システムとして拡張していくと、これまでの方式の100万倍といった高効率な転送が可能となるといい、長距離量子通信や量子コンピューターの構築といった、未来の世界がいよいよ見えてくる。

Nature 掲載論文
http://www.nature.com/nature/journal/v500/古澤明研究室 ホームページ
http://www.alice.t.u-tokyo.ac.jp/index.html